2重フロア構造ボディを核とする画期的安全思想や、大胆なモノフォルムスタイルを具現化して97年にデビューした初代Aクラス(W168)は、コンパクトカー界に大きな衝撃をもたらす意欲作だった。
だが、軽く100年を超えるクルマづくりの歴史を有するメルセデスにしても、現代のコンパクトカーを開発するのは初めての経験で、前輪駆動(FF)についてもVクラス/VITOに次ぐ2作目の例。広さ感が不足する室内パッケージやチープな印象を与える内装、違和感の残るステアフィールやつっぱった印象のサスなどの荒削りな部分が残り、正直言って習作の香りが漂っていた。
そこで、累計110万台以上の実績を残した初代で得た十分な経験と反省を踏まえて、2代目のW169が開発されることに。2重フロアのサンドイッチコンセプトや、大胆にエンジンを傾斜(58度)させた横置きFFメカ、先進のモノフォルムスタイルなど、初代の基本思想と美点をしっかりと継承しながら、居住性や内外装のクオリティ、走りの質感を大幅に高めたのが見どころだ。
05年に現行型が日本に上陸したとき、「立派になった!」と直感した人が多いと思うが、それもそのはず。ホイールベースを2425oから2570o、3サイズを3615×1720×1575oから3850(最新型は3885)×1765×1595oに拡大するなど、2代目はひとまわり大きくなって登場。全長はホイールベースを170o延長した初代のLモデルより長い。
成長の目的は言うまでもなく、居住空間の拡大、操安性と乗り心地のレベルアップ、安全性のさらなる向上にある。そこで見逃してはいけないのは、初代プラス0.1m(Lモデルマイナス0.2m)の5.3mに最小回転半径をとどめるなど、最小のメルセデスならではの扱いやすさはきちんと守りとおしていること。加えて、欧州Bセグメントを代表するVWポロと比べてもまだ全長は短く、コンパクトカーの本分は忘れていない。
なお、08年8月に日本に導入された改良型(いわゆる09年モデル)は、ヘッドライト、グリル、バンパーのデザインをリフレッシュすることでマスクをよりスポーティで上質な印象としながら、コンビランプやバンパーの造形を変更してリヤビューの安定感を強調したのが要点。
また、平成17年基準75%低減レベル(4つ星)の排ガス浄化性能に加え、エンジン制御改良により新型は10・15モード燃費を6%改善して平成22年基準を達成し、環境対応を一段と強化。安全装備もより充実させて、メルセデスらしい魅力をより深めたのが注目に値する。Aクラスは歩みを止めずに進化を続ける。
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