ここ10年の高級車マーケットで目を見張るのは、クロスオーバーSUVの台頭。RXが世界販売の3割以上を占めるレクサスはいい例だ。そしてSUVが高級車として幅を効かすようになり、セダンにも変化が表れた。SUVとは異なる存在感をアピールするため、セダンは「よりスポーティに、さらにエレガントにという方向に進化をシフトさせた。
そうした新時代セダンの象徴は、04年ジュネーブでメルセデスが発表したCLSクラス。ドアは4枚だが、流麗なシルエットはクーペそのもので、高級パーソナルカーならではのスポーティさと艶っぽさを全身から発散させている。登場時には「ジャガーXJイーター」とも称された。
が、メルセデスが意識したと言われる先代ジャガーXJは、英国高級車らしいクラシック路線。対するCLSクラスの外観はモダン路線で、低全高を特徴とするパッケージや、優美さが際立つムードを除けば、じつは共通項はそれほど多くない。
メルセデスが先代XJに注目したのは、「居住空間の広さよりも、優美なスタイル、低めのドラポジを好む高級セダンユーザーが存在する」という事実を、現に証明するクルマだったからに違いない。そこに、EクラスやSクラス、そしてCLクラスとも違う市場を見いだしたのだ。
ベースプラットフォームは現行のW211・Eクラスで、2855mmのホイールベースは共通。だが、登場時の前期型同士を比べると、全長は95mm、全幅は55mmも大きく、逆に全高は40mmも低く設定されていた。こうしたロー&ワイドの寸法設定と、アーチ状のルーフライン、高めのベルトライン、精悍なフロントマスクが渾然一体となって、CLSクラス独自のスポーティ&エレガンスの世界を構築しているわけだ。
コンセプトやデザインは、お堅いイメージのかつてのメルセデスでは考えられないほど大胆。「4ドアクーペ」のコンセプトではボルボS60が先行したが、S60の軸足はまだセダン側にあり、衝撃度、美しさともCLSクラスが明らかに勝っている。
そして今、CLSクラスが切り開いたこの新しいジャンルは、確実な広がりを見せつつある。
その証は、Sタイプ後継のジャガーXFやVWのパサートCC。さらに、ポルシェ・パナメーラやアストンマーチン・ラピードなど、スポーツカー界からセダン界に攻め入ってくるライバルを牽制する戦力としても、メルセデスラインアップにおけるCLSクラス(とくにAMG)の重要度は増している。
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