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    伝説を作ったクルマは自動車100年以上の歴史において存在するが、911のように長い時間をかけて存在が伝説化したクルマは他にない。
    1963年のフランクフルトモーターショーでデビューを飾った「タイプ901」、これこそ911伝説の始まりであった。2+2シーターでリヤにエンジンを搭載したこのスポーツカーは、本格的なモノコック構造や水平対向6気筒エンジンといった当時先進的な技術を取り入れていたことで一躍注目を集めた。それから1年後、モデル名を911に変更するというドタバタはあったものの、356に続く本格スポーツカーとして順調に販売台数を伸ばしていった。
    軽量級スポーツカーとしての基礎設計を忠実に守りつつ、ポルシェならではの独創性を注入した911のパッケージングは、あらゆる点で356をしのぐその一方でエンジニアに宿命的とも言える禍根を残すこととなった。その焦点となったのがリヤオーバーハングに水平対向エンジンを搭載するというRR形式だ。
    リヤエンジンレイアウトのメリットは、スポーツカーにふさわしいコンパクトなボディにも関わらず2+2の実用的な居住空間とフロントのラゲッジスペースを実現させたこと。さらに加速時にはリヤに荷重がかかるため、タイヤのグリップ力をフロントエンジン車よりも発揮することができる。さらにエンジンと駆動系を一緒にできることで、FRよりも部品点数も少なく済むし軽量に仕上がるのだ。
    しかしその一方で、年々厳しさを増す排気ガス対策を行おうにも空冷エンジンは水冷に比べて温度管理が難しく、複雑な排気レイアウトもそれを助長した。そして重いエンジンがホイールベースの外側にあることで、操縦性にもピーキーさがつきまとった。
      初代から現行型まで、特徴的なスタイリングが受け継がれていることがよくわかる。1963年に初代モデルが160馬力の水平対向6気筒 2Lエンジンを搭載して誕生して以来、改良を加えながら94年のTYPE 993まで空冷エンジンの歴史が続いた。
    しかしポルシェはRR形式をけっして諦めることがなかった。ポルシェという会社は、自動車メーカーであるだけでなく、他の自動車会社のコンサルティング業務も行う優秀な研究・開発機関という側面ももっているのだが、そのリソースを911の発売後もずっとたゆむことなく改良のため注ぎ込み続けたのだ。
    一見不合理とも思える選択ではあるが、ポルシェは911を、彼らが信じたリヤエンジン・リヤドライブというレイアウトを諦めなかった。その結果は皆さんがよくご存知のとおり、911は伝説になった。変わらないために変化し続ける50年以上の歴史とエンジニアたちの努力、そしてそれを支持したクルマ好きのこだわりが911を伝説にしたのだ。
    リヤエンジン・リヤドライブのスポーツカーという世界でも希少なプロフィールを堅持しつつ、快適性や安全性をその走行性能以上に大切にしてきた911。買い物からサーキットまで、1台ですべてをまかなえる稀有なクルマだ。

     
      1930年代初頭、自動車設計者フェルディナント・ポルシェ博士によって興されたポルシェ事務所は、自動車にまつわる設計やコンサルティングを行う会社としてスタートした。1948年にオリジナルモデル第1号車の356を世に送り出して自動車メーカーとしての道を歩み始めたポルシェは、その後1963年に傑作スポーツカー「911」を発表し、スポーツカーメーカーとしての道を本格的に歩み始めた。それから約50年、ポルシェはスポーツカーメーカーというアイデンティティーを維持しながら、ミッドシップ、SUV、サルーンとそのフィールドを広げている。