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    ポルシェというブランドは、スポーツカーだけをラインアップしてビジネスを継続させてきたという世界でもユニークな自動車メーカーだ。それを可能としたのが、フェルディナント・ポルシェ博士を筆頭としたエンジニアたちの高い技術力や先見性と、スポーツカーに対する愛情だった。とくに911は、ポルシェを一躍世界的なスポーツカーメーカーに押し上げると同時に、ポルシェという企業の経営を安定させた稼ぎ頭となった。
    しかし、そんな反映がいつまでも続くことがないことは当のポルシェがよく知っていた。そこで、911を中心に据えたモデル展開を行うことになる。1975年にはフロントに水冷4気筒エンジンを搭載する2+2FRスポーツの924を、77年には911より上級のセグメントをターゲットにして、V8エンジンを搭載するFRスポーツの928を販売した。これらに共通するのは、911の弱点であった気難しい操縦性能やリヤエンジンならではの整備性の悪さを克服したパッケージングを採用していること。ポルシェはユーザーに対して、より乗りやすく、維持しやすいモデルを提供しようと考えたのだ。
    だが、マーケットの反応は逆だった。理知的なパッケージングで開発され、優れた性能を与えられたこれらFR系ポルシェは、販売台数的には911の後継モデル足り得ることができなかったのだ。そして、ポルシェが恐れていたことが現実化する。90年代にメインマーケットの米国市場で911の人気に陰りが見えたことで、ポルシェは経営不振に陥り、一時期は身売り話もささやかれるようになった。
    それを救ったのが、水冷エンジンをミッドシップに搭載し、911と約50%のパーツを共用化する合理的な設計で誕生したボクスターの存在だった。ボクスター、そして同時期に投入した996型911のスマッシュヒットにより経営を安定させたポルシェは、もう一度長年の懸案であった911以外のヒットモデルに再び挑戦する。
      2014年にマイナーチェンジを受けたカイエン。最新のラインアップにはプラグイン・ハイブリッドに加えてクリーンディーゼルも加わり、さらに魅力をアップさせている。
    それが、2002年に登場したカイエンだ。カイエンは、それまでポルシェが挑戦してきたスポーツカーとは、まったくパッケージングの異なるクルマである。SUVどころか、5ドアすら初めてだったのだから。
    しかし、ポルシェの経営陣は勇気を持って高級SUV市場に「SUVのスポーツカー」というコンセプトをひっさげてカイエンを投入。その結果はご存知のとおり、世界的な大ヒットという熱狂的な支持をもって受け入れられた。
    カイエンを開発するにあたってポルシェは非常に上手なやり方を選択した。それは、車体のコアとなるシャシーをフォルクスワーゲンと共同開発したことだ。シャシーの開発には莫大な投資が必要だが、より販売台数を多く見込んでいるVWグループと共同開発することでスケールメリットが生まれたのだ。
    カイエンはVWグループ用のシャシーにさらに手を加え、足まわりやボディ剛性を高め、内外装にもポルシェ独自のスタイリングを与えているが、これがもし独自開発だったら、カイエンの価格は現在のものではきっと収まらなかっただろう。
    そう、カイエンは高額車両ではあるものの、パフォーマンスに対する内容の価値から考えれば、非常にコストパフォーマンスのいいモデルに仕上がっている。本格的な悪路走破性と高い居住性を備えつつ、スポーツカーと呼ぶにふさわしい超高速域での安定性をも両立させた稀有なモデルなのだ。舌の肥えた自動車グルメたちがそこに飛びついたのは、ただポルシェのSUVというブランドだけでなく、名前相当の実力を見抜いたからでもある。
    かくしてカイエンは、立ち直りかけていたポルシェというブランドを完全に蘇らせた。それは、カイエンが発売される前の1999-2000年の販売台数が4万5000台だったのが、2008年には倍以上の9万7000台に達したことからも明らかだ。そして自信を深めたポルシェは、さらに4ドアセダンのパナメーラを手がけるなど、スポーツカーメーカーとしての領域をさらに広げ成長を続けている。
    従来の常識を打ち破り、さまざまな形のスポーツカーを世に送り出しているポルシェ。その屋台骨を支えているのは、今でもSUVのカイエンだ。911の誕生から50年を経て、ポルシェを911の呪縛から解き放ったカイエン。その存在は、誕生から10年以上を経ってさらに輝きを増している。
      磨き上げられた基本性能の高さゆえ、初代モデルであってもそのパフォーマンスはいまだ一級品。コンディションのいい中古車であれば、まだまだ長時間楽しめる。

     
      1930年代初頭、自動車設計者フェルディナント・ポルシェ博士によって興されたポルシェ事務所は、自動車にまつわる設計やコンサルティングを行う会社としてスタートした。1948年にオリジナルモデル第1号車の356を世に送り出して自動車メーカーとしての道を歩み始めたポルシェは、その後1963年に傑作スポーツカー「911」を発表し、スポーツカーメーカーとしての道を本格的に歩み始めた。それから約50年、ポルシェはスポーツカーメーカーというアイデンティティーを維持しながら、ミッドシップ、SUV、サルーンとそのフィールドを広げている。