マスタングとエクスプローラーがツートップを飾るフォードだが、彼らにはもうひとつの顔がある。フォーカスを筆頭とするヨーロピアンテイストのラインアップだ。
今回試乗したフィエスタはまさにそれを象徴するモデルで、Bセグメントというコンパクトカーカテゴリーでトップランナーに位置する。日本はともかく、ヨーロッパを中心に高い人気を誇り、2012年は年間72台以上を売った。
ではいったいどんなプロフィールがマーケットの注目を集めたのか。
大雑把に言うと、扱いやすいサイズに燃費のいいエンジンが搭載される。しかも運動性能が高く、キビキビ走るのだからクルマ好きも納得の仕上がりなわけだ。そして、そのエンジンの評価がものすごく高い。2年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーに輝いたほどの実力を持つ。
排気量はいわゆるリッターカー(993cc)といわれるもので、3つのシリンダーからなる。ヘッドは直噴式で、それにターボを組み合わせている。名前がエクスプローラーに積まれる2Lエンジンと同じ“エコブースト”なのはそんな理由から。「直噴式+ターボ」がそれを指す。エンジン工場がスペインのバルセロナというのも同じだ。
で、これがうわさどおりのデキ。今回はじめてその実力を体感したのだが、出だしから1Lユニットとは思えないほど力強い走りをみせた。ターボが低回転からしっかり働いてそのパワーをフロントタイヤを通して路面に伝える。なるほど、ヨーロッパで人気なのもわかる。
というのも、彼の地ではキビキビした走りが重視される。日本車よりも乗り心地が硬くてステアリングにダイレクト感がある方が人気なのだ。
よって、こいつのステアリングもその類に漏れない。最近流行の電動パワステを採用するが反応はクイック。切りはじめは軽く途中から手ごたえが伝わってくるのだから秀逸だ。そしてそれに追従するボディ。言ってしまえば、フォルクスワーゲンに通じるカッチリ感がある。スッと切ったときの反応など、けっこうな剛性感だ。ちなみに、フォーカスのライバルにあたるのがゴルフ、このフィエスタのライバルはポロとなる。
トランスミッションはこれまた反応のいい6速デュアルクラッチ式。ATモードはスムーズでトルコン式と思えるほどだ。マニュアル操作するには親指で行うシフトノブのサムスイッチに手をかければいい。
ならば日本でも爆発的なヒットとなるのか!といえば、疑問符が付く。ナビゲーションシステムが装備されなかったり、音声操作ができるSYNCが英語対応のみといった部分はぜひとも改善を期待したい。セッティングを表示するモニターも英語表記のみだ。といったことを踏まえると、やはりマニアックな乗り物であると言わざるをえない。走りを重視し、利便性を横におかないと購入までたどり着けないかもしれない。
ただ、なんでも揃っているポピュラーカーにはない硬派なテイストを味わえるのは事実。このスタイリングとこの走りがあれば、自称クルマ好きはみな納得するだろう。ナビゲーションシステムはポータブルタイプのものを付ければいい。それより、世界トップレベルの3気筒エンジンを所有する喜びを得られる。
といった仕上がりのフィエスタ。冒頭に“2つの顔”の話をしたが、いままさに彼らは「ワンフォード」とテーマを掲げた。その意味からもこいつが今後のフォードを担う指針になっているのかもしれない。
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