カイエンをSUV界のスターダムに押し上げたカギは、ポルシェのブランド力と、老舗スポーツカーメーカーが手がけたモデルならではの優れたパフォーマンスだ。でも、さすがに今の時代は、速さだけをウリとする戦略は取りにくい。ディーゼルに続き、2代目でハイブリッドを投入したのは、ポルシェが時代のムードやニーズをしっかり捉えて開発をしている証拠だと言っていい。
欧州ではディーゼルが主役だが、日本やアメリカとの温度差はまだ大きく、ハイブリッドは望まれていた技術だった。親密度を深めるVWグループとの関係が活かされ、ハイブリッドシステムもトゥアレグと基本を共有するカタチで開発された。
まずはハイブリッドならではのエコ性能に注目すれば、カイエンSハイブリッドは欧州複合モードで12.1km/L(3.6L V6は10.1km/L)という優れた燃費値を達成している。車重約2.3トンの高級SUVで、この数値は文句なしに優秀だ。
とはいえ、いくらエコ度が高くても、走りが冴えないのではポルシェとしての価値はない。その点は抜かりがなく、過給機付き3L V6とモーターをあわせたシステム性能は380馬力/59.1kgmに達し、すばらしい性能を実現しているのだ。
とくに印象的なのは、強大なモータートルクを活かした力強い加速で、1速、2速、3速……とスムーズな自動シフトを行いながら速度を「グィーン」と伸ばしていく。そこで絶対性能を記せば、最高速と0→100km/h加速はV6の230km/h &7.8秒、V8(カイエンS)の258km/h &5.9秒の間の242km/h&6.5秒。「S」を名乗るに十分な速さを備えていることがわかる。
また、モーター走行の範囲も意外なほど広く、「Eパワー」のスイッチを押せば、市街地での穏やかな走りはモーターのみでカバーすることが可能だ。加えて、高速でもアクセルオフ時(156km/hまで)にエンジンをカットすることができ、「スーッ」と滑走するようなコースティング状態をつくり出すことができる。動力性能のゆとりや、圧倒的な静寂感とスムーズさが光る未来的走行フィールは、燃費節減やCO2排出低減に勝るとも劣らない魅力だ。
おとなしく走ればとても経済的、なのに、ひとたび右足に力を込めれば……V8モデルに迫る力感ある走りが楽しめる。コイツは、そんな二律背反を見事に成立させている。
もちろん、ポルシェがつくるのだから、シャシーもきっちりと仕上げている。試乗車はオプションのPASM(電制可変ダンパー)を装着していたが、高速域ではビシッとした安定を示し、コーナーでのフットワークは重い車重や重心の高さを意識させないほど軽快な印象。スポーティーな走りも十分に楽しめる能力を持つ。それでいて、コンフォートモードでの乗り心地はしなやかかつ快適なのだから、懐の深さが光る。
このように、ハイブリッドメカも、シャシーもごきげんな仕上がりだ。気になったのは、回生の強弱の変化や、もしくは油圧ブレーキとの連携に起因すると思われる減速時のギクシャク感ぐらいなもの。システムの基本を共用するパナメーラSハイブリッドでは、そのクセは気にならなかったから、ハードに乗られた後で試乗車のブレーキが本来の状態でなかったことも考えられる。
そんなカイエンSハイブリッドの価格はV8の「S」より高い点は引っかかるが、エコカー減税の恩典で実質の購入費用は抑えられるから、バリュー度はかなり高い。
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